誰か知る松柏後凋の心

たれかしる しょうはくこうちょうのこころ

わが心のバイブル―『取調べを受ける心がまえ』⑥(最終回)~取り調べ可視化と司法取引~

今回が,私の心のバイブル『取調べを受ける心がまえ』*1シリーズの最終回になります。

なお,この『バイブル』の原典は,岐阜弁護士会美和勇夫弁護士の著された『美和ノート』*2です。

さて,最終回は,取り調べ可視化と司法取引について書いてみたいと思います。この話題については,2015年夏~秋頃に国会で議論された『刑事司法改革関連法案』にも含まれていたので記憶に新しいと思います。

さて,『バイブル』では,取り調べ可視化について,

あなたの事件は録画・録音がなされるかもしれません。
2013年1月時点で、警察で取調べを録画するとしているのは、以下のような事件です*3

 ○裁判員裁判対象事件
 ○知的障がい者の人が被疑者となっている事件

検察庁では、それに加えて、さらに*4
 ○責任能力が問題となる事件
 ○検察庁が、独自に捜査する事件 

との記述があります。

私の事件(国循サザン事件)は,大阪地検特捜部の独自捜査により立件されたものですので,一番最後の「検察庁が、独自に捜査する事件」に該当します。よって,私の事件では,取り調べはすべて録画・録音されていました。

 

それで,『ああ,そうなの,よかったね』という話ではありません。

 

録画・録音されていたのは,勾留後被疑者の取り調べのみ,です。逮捕前の任意の取り調べと,被疑者以外(参考人)の取り調べは一切録画・録音されていません。(もちろん被疑者が自分で取り調べを録音する『セルフ可視化』はアリ,です。これについては,時期がきたら,また別の記事で詳しく書こうと思います)

私は,取り調べ可視化に賛成します。その理由は,『バイブル』にある:

密室の取調べでは、黙秘権を行使しようとしても、黙秘権を侵害するような取調べ(例えば、大声で怒鳴ったり、黙秘したら不利になるかのような脅しをしたりなど)をしてくるかもしれません。しかし、録画されていれば、そのような取調べはできません。黙秘をしやすいはずです。

にあるとおり,

  • 可視化されている状況において,検察官は無理な取り調べをしない

からです。これは,被疑者の精神状態に大きく影響するファクターです。黙秘については否定的に捉える方もいらっしゃるかもしれませんが,検察に比べて圧倒的に立場の弱い被疑者にとって,唯一持てる武器といってもいいものです。法律でも当然のごとく認められている被疑者の権利であって,実務において軽んじられていることの方が問題と考えます。(これについてもまた別の記事に書きます)

しかし,勾留後の取り調べのみ可視化されるのでは価値が半減します。任意の取り調べの段階で,むちゃな取り調べをする検事はいます。実際に,私の親しい知人は,犯罪者のように扱われて検事の暴言を浴び,いまなお心に傷を負ったままです。私はその検事を訴えたいぐらいですが,密室の取り調べにおいて,そのようなことがあったことをどうやって証明できるでしょうか。参考人も含めて,全段階での取り調べを可視化しないかぎり,同様の被害者が増えるばかりです。

参考人を含めて取り調べを可視化すべき,であるのは,司法取引との関係もあります。この点について『バイブル』は言及していません。

司法取引を認めるのであれば,その過程のすべてを可視化しないかぎり,検察側の濫用を防止できないはずです。

今,現実には,冤罪の温床となる,不正な司法取引が行われています。それは,

  • 参考人の弱みを握り,参考人に対し,検察側のストーリーに沿った供述を強要する(村木厚子氏の不正郵便事件で同様のことが行われました)
  • 参考人が被疑者となっている別の事件の捜査を手加減することを条件に,検察側のストーリーに沿った供述をさせる(美濃加茂市市長の汚職疑惑事件でも同様のことが疑われるといわれています)
  • 容疑を否認する限り勾留の保釈を認めない(=認めれば身体拘束を解く,ということを意味します。身体拘束が司法取引の材料になっているのです)

というものです。このように,法整備されていない現時点でも,捜査機関は圧倒的な権力を有し,実質的な司法取引ができる状況にあるのは明らかです。それを監視し,チェックするためには,事件に関与するすべての人物に対する,すべての段階での取り調べを完全に可視化することが最も有効です。

私が取り調べを受けているとき,担当検事は,さかんに,私に対して,

(村木氏の)郵便不正事件があった後,検察は変わったんです。わたしたちもいろいろなところからチェックをうけるようになったんです。大変なんです。

とアピールしていました。それに対し,私が,

でも,それって,組織内部のチェックですよね。

と言うと,検事は黙ってしまいました。(外部にいるわれわれには確認しようがない)組織内部のチェックを「大変」と真顔でアピールすることの滑稽さに気付かないとは,笑わせてくれるものです。

彼らがいかに組織内部しか見ていないか,彼らの論理が組織内部で閉じているか,を露見する出来事でした。

 

国循官製談合事件,いわゆる国循サザン事件について知りたい方は,こちらのサイトをごらんください。↓

southerncase.shig.org

*1:http://shin-yu-lawoffice.com/miwa-akitanote.pdf

*2:美和ノート:美和勇夫法律事務所

*3:平成24年3月29日警察庁発表の「捜査手法、取調べの高度化プログラム」

*4:平成24年10月23日最高検次長検事依命通達「被疑者取調べの録音・録画の試行について」